2024/10/31

あと5㎏がどうしても挙がらない、ときに有効かもしれないイメージ・トレーニングとその方法

 













筋トレの自己記録を突破するのは嬉しいものですが、永遠に成長を続けることはできません。どれだけ頑張っても、見えない壁というか、天井というか、とにかく記録が頭打ちになる時期は必ずやってきます。

そんなときには自己記録の110%を挙げている姿を繰り返し思い浮かべるイメージトレーニングが効くよ、とおススメしている研究(*1)があります。

*1. Positive Visualization and Its Effects on Strength Training 
https://assets.pubpub.org/k9og4slt/31643844339559.pdf


米国ケンタッキー州にある私立大学、トランシルバニア大学の研究者たちは同大の野球、ソフトボール、バスケットボール、サッカー、ラクロスなどのスポーツチームに所属する男女133人に3週間の筋力トレーニング実験に参加してもらいました。

参加者はまず、デッドリフト、ベンチプレス、クリーン、そしてスクワットといった種目の1-rep max(最大挙上重量)を測定され、その後に2つのグループに分けられました。

1つのグループは毎日5分間以上の後述する方法によるイメージトレーニングが課せられ、別のグループにはその指示はありませんでした。

3週間後、イメージトレーニングをしたグループは挙上重量が4.5kg~6.8kg増えたのに対し、それを行わなかったグループは平均2.2kgしか増えなかったということです。

なお、「イメージトレーニング」とは私の訳語で、原文では"Visualization"と表現しています。

具体的には以下の方法です。

  • 最大挙上重量の110%を挙げることに成功した姿を思い浮かべる。例えば、現実にベンチプレスを100㎏挙げられるとしたら、110㎏を挙げていることをイメージするわけです。
  • 毎日最低1回、5分間以上、元気の出る音楽を聴きながらイメージする。
  • 毎日決まった時間に外部からの干渉を受けない環境で行う。
  • 寝転んで、目を瞑ることが望ましい。


人によって上記の条件を満たす時間と場所は様々でしょうが、例えば私なら毎晩9時にはベッドに入りますので、そのときにヘッドセットでロッキーのテーマを聴きながら、今までどうしても挙がらなかった重量のバーベルを持ち挙げている、かっこいい自分の姿を思い浮かべたらよいみたいです。それだけで自己記録を更新できるらしいです。

今夜からでもやってみようかと思いますが、最大の難関はこれを3週間続けなくてはいけない、ということでしょう。継続はやはりチカラみたいです。




2024/10/30

筋トレ前に糖分が含まれた飲料でうがいをするとパワーが増す ー新研究の紹介

 













炭水化物や糖分がダイエットの大敵のように言われるようになってからも、大きなパワーを発揮するためには必要な栄養素であることは筋トレの常識です。

でも、だからと言って、米をどんぶり一杯食べたり、あるいはスポーツドリンクを牛飲する必要はないみたいです。

実際に飲み食いしなくても、糖分が含まれた飲料で「うがい」をするだけで筋肉のパワーが上がる。そんな研究結果(*1)が発表されました。

*1. Carbohydrate Mouth Rinses before Exercise Improve Performance of Romanian Deadlift Exercise: A Randomized Crossover Study
https://www.mdpi.com/2072-6643/16/8/1248


研究では20人の健康な若い男性(平均年齢22歳)を2つのグループに分け、あるグループには糖分6%が含まれた飲み物を、別のグループにはミネラルウォーター(プラセボ)を与えました。それらを使ってうがいをした後に、1セット6回が限界のルーマニアン・デッドリフトを5セット行ってもらいました。その数値を分析したところ、甘い飲料でうがいをしたグループの方に顕著なパワー数値向上が認められたとのことです。

ルーマニアン・デッドリフトはバーを上げるとき(コンセントリック)も下げるとき(エキセントリック)も大きなパワーを求められる種目です。1セット6回を5セットは高重量低回数に分類される、瞬間的なパワーを目指すための設定です。セット間の休息は3分間だったそうです。

パワー増加はコンセントリック局面とエキセントリック局面の両方で認められたとのこと。


僕は甘いものが好きではないので、コーラもスポーツドリンクも飲みません。コーヒーもブラックです。でも飲まなくてもいいなら、口をゆすぐことくらいはできると思います。体重増加を気にする人にも朗報かもしれません。

もっとも、スポーツドリンクにしろ、ミネラルウォーターにしろ、おカネを出して買った飲み物でうがいをすることに心理的な抵抗感はないか、という問題は別にあるような気もします。




2024/10/29

オリンピック選手には喘息患者が多い。ショッキングな研究結果とある難問


 











スポーツは健康に良い。ならばスポーツ選手は一般人より健康的なはず。漠然とそう考える人は多いかもしれません。

ところが、そのスポーツ選手の中でもトップレベルの集団であるオリンピック選手たちは慢性疾患に罹る比率が一般人より高い。そんなショッキングな事実を報告した研究(*1)があります。

*1. Asthma and exercise-induced bronchoconstriction in athletes: Diagnosis, treatment, and anti-doping challenges
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/sms.14358

その慢性疾患とは喘息(ぜんそく、英語: asthma)です。

上の研究によると、オリンピック選手たちの15~30%が喘息を患っているのだそうです。この数字は全スポーツの平均であり、スポーツによってバラつきがあるとのこと。

喘息に苦しむ選手が多いのは耐久系スポーツに分類される、長距離走、トライアスロン、水泳、そして冬季オリンピックではクロスカントリースキーやバイアスロンなどの種目です。

喘息の原因になるのは大気汚染や食習慣だと考えられてきましたが、どうやら長時間の有酸素運動によって引き起こされるケースもあるようです。彼らは筋肉だけでなく、心肺臓器も酷使しているのでしょう。

喘息に罹ると呼吸困難になることや、肺に長期的なダメージを与える可能性もあります。治療せずに放置することは大変に危険なのですが、アスリート、とくにオリンピック選手たちにとっては別の重大な問題があります。

それは喘息の治療に利用できる薬品の多くは、アンチ・ドーピング規則に抵触することです。

その結果、喘息の症状に悩みながらも、有効な治療の手段を取れない選手も多いと、論文著者たちは警鐘を鳴らしています。




2024/10/19

定年退職前後の高重量筋トレはその後の何年も効果が持続する ー新研究の紹介

 













いくら鍛えても、筋肉は使わないとすぐに衰える。世は諸行無常であり、驕れる人も久しからず。だから「貯筋」なんてできない。

それが今までの僕の信念でした。でも、必ずしもそうとは言えないよ、って研究(*1)が発表されました。退職間際の人が「重い」重量で筋トレをすると、脚の筋肉はその後の長期間に渡って丈夫でいられるのだそうです。


*1. Heavy resistance training at retirement age induces 4-year lasting beneficial effects in muscle strength: a long-term follow-up of an RCT.
https://bmjopensem.bmj.com/content/10/2/e001899


デンマーク・コペンハーゲン大学の研究者らは451人の退職間際の男女を以下の3グループに分け、1年間の活動を指定しました。

A) 週3回、高重量の筋トレ

B) 週3回、自重やバンドなどを用いた全身サーキット・トレーニング

C) 日常生活以外に運動の指定なし


なんとなく、高齢者に向いているのはB)のような気がしますが、2~4年後の追跡調査によると、脚の健康をもっとも高レベルで保っていたのはA)でした。

A) グループが行っていた筋トレとは1-rep Max の70~85%を6~12回を1セットとして3セット行うというものでした。実際にやってみると分かりますが、これはけっこう大変です。筋トレにも色々ありますが、パワー系と呼んでもいいセッティングです。

高齢者は怪我のないように、無理のない重量と回数で行いましょう。そんな筋トレ専門家のアドバイスを嘲笑うかのようです。週3回という頻度を1年間継続するというのもなかなかハードルが高いと言えるでしょう。

定年間近にそこまでやると、健康的なリタイア生活を長く楽しめる可能性が高くなるらしいです。試してみる価値はありそうです。

ちなみに、上の研究対象者の調査終了時の平均年齢は71歳、61%は女性だったということです。


2024/10/18

酒を飲むなら、その前に走れ。効果的な二日酔い対策とは日常の運動習慣である。 ー新研究の紹介

 













二日酔いによく効く飲み物や食べ物はよく話のタネになりますね。熱いシャワーを浴びるとか、水をがぶ飲みするとか、アルコールを体から追い出すための方法もよく語られます。

二日酔いにならないベストの方法はもちろん酒を飲まないことですが、それができれば苦労しないし、そもそもそんなことはしたくない。そんな人も多いでしょう。

最近、ある依存症関連の学術ジャーナルに発表された研究(*1)によると、日常的な運動習慣が二日酔いの症状を和らげるカギだということです。


*1.Physical activity as a moderator of the association between alcohol consumption and hangovers
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39216177/#full-view-affiliation-1


ヒューストン大学の心理学者らを中心とした研究チームは1,676人の大学生たちを対象に聞き取り調査をしました。抽出条件は一度でも二日酔いを経験したことがある、そして最低週に30分以上の運動をする習慣があることです。多分、条件に合致する学生を選ぶのは難しくなかったでしょう。

学生たちの飲酒パターン、二日酔いになる頻度と症状、それに運動の量と強度を分析した結果、二日酔いの症状と運動には強い関連があることが分かりました。

当たり前のことですが、飲酒量が多いほど、二日酔いをより頻繁に経験し、またその症状もひどくなります。しかし、ランニングなどの強度の強い運動をする習慣があればあるほど、二日酔いの症状が軽減されることが明らかになりました。

理由は様々に考えられます。

  • 運動はエンドルフィンの分泌を促す。エンドルフィンには痛みを和らげる効果がある。
  • 運動は睡眠の質を向上させる。睡眠は回復を促す。
  • 運動は体内代謝を良くする。それはアルコールの分解にも役立つ。
  • 運動は体内の炎症を抑える。炎症が抑えられると不快感が減る。

そのどれかが正しいのか、あるいはすべて正しいのかは私には分かりません。

しかし、この論文を素直に読めば、以下の結論を導くことができます。

スポーツマンでも酒を飲みすぎたら二日酔いにはなる。しかし、運動しない人に比べるとその症状は軽くなる

少なくとも私にとっては、きわめて都合の良い結論です。




2024/10/16

クロスフィットはHyroxを取り入れるべきか

 


"Lauren at EU Championships 2023 Wall Balls" by HybridFitty is licensed under CC BY 4.0.










クロスフィットのボックスにHyrox用のクラスを設けるところが増えてきました。

何それ? という人は下の記事をご覧ください。

関連記事:欧米で人気急上昇中。Hyrox とDeka Fitは「次のクロスフィット」か


長い話を私なりに短くすると、「クロスフィットでよくやるワークアウトのうち、技術的に簡単で根性頼みの種目に中距離走を挟んだ耐久系競技」です。具体的にはロウイングとかスレッド・プッシュとかバービージャンプとかのことです。それらを決まった順番で行います。

「次のクロスフィット」みたいに呼ばれて、人気が高まっているのですが、クロスフィットの方も無視できない勢いがあります。と言うか、はっきりと人気が逆転しているような気がしないでもありません。

それならむしろ、Hyroxをクロスフィットに取り組んでしまえ、と主張している人の話を、クロスフィット専門のようなウェブサイト『BarBend』が掲載しました。

関連記事:CrossFit Meets HYROX, Part 1 — John Singleton and the Progrm on How to Integrate HYROX in CrossFit Gyms


クロスフィット・ゲームズのコーチを長年務め、最近Hyroxのトレーニングプログラム責任者になったという、John Singleton氏です。

この記事は3本連載の1本目ということで、具体的な方法より、なぜクロスフィットがHyroxを取り入れるべきかという概論を述べています。

また、長い話を私なりに短くしますと、氏の主張は以下のようなものです。

「クロスフィットのボックスにはHyroxで必要とする器具が一通り揃っている。それを利用しない手はない。オリンピック・リフティングやジムナスティックな種目は難し過ぎると敬遠するメンバーも多い。そんな人たちのニーズに応えられる。Hyroxはクロスフィットと伝統的な耐久系スポーツのギャップを埋めることができる」


もっともな話だとは思います。最少の投資で最大の成果があるかもしれません。

constantly varied functional movements, executed at a high intensity(常に変化する機能的な種目を強い強度で行う)ってクロスフィットの理念はどうなったんじゃい、おうこらおうと言いたくもなりますが、ボックスを経営する人には別の見方もあるのでしょうね。








休まず歩き続けるより、ちょこちょこ立ち止まった方が痩せる ー 新研究の紹介

 













ウォーキングは痩せる。長時間の有酸素運動は脂肪を燃焼するのに最適だから。

きっと本当です。でもありがちな誤解があるよと、そんな耳寄りな情報を、英国の王立学会出版(Royal Society Publishing)に掲載された論文(*1)が知らせてくれています。

*1. Move less, spend more: the metabolic demands of short walking bouts
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2024.1220


同じ距離を歩くなら、休みを挟まずに歩き続けるより、何回も立ち止まる方が、身体はエネルギーを多く消費する。つまり効率的に痩せるってことです。

トレッドミルとステアマスターを使った実験では、止まった状態から歩き始めた段階のエネルギー消費量は、歩き始めてからしばらく経った段階でのそれより、20-60%程度の範囲で多くなったそうです。

逆に言えば、歩き続けることで人は体内エネルギーを効率的に消費するようになるというわけで、そしてそれはある意味では望ましい成果ではあるのですが、痩せるという目的には合わないようです。

クルマに置き換えるとよく分かります。高速道路をスイスイ走るときより、混雑した街中でストップ&ゴーを繰り返すときの方が燃費は悪くなります。クルマがたくさんガソリンを燃焼するように、人は体内のエネルギー源、その多くは脂肪をより多く燃焼するのです。

痩せるためにトレッドミルを歩いたり走ったりするよりも、そのジムに歩いて行く方がずっと効率が良いってことですね。

信号待ちがない公園を探してウォーキングするより、通勤や通学で街中を歩く方がずっと痩せるってことでもあります。

ブルース・リーは半世紀も前にこんな言葉を残しています。つくづく偉大な人でしたね。

「なるべく歩くようにしなさい。たとえば、目的地から数ブロック離れた場所に駐車するように。エレベーターを使わずに、階段を上りなさい」





2024/10/08

筋トレの前にSNSをチェックするとパフォーマンスが落ちる ー 新研究の紹介

 













スマホの持ち込みを禁止するジムがあります。目の前でスマホをいじられると、ラックやマシーンの順番待ちをしている人は確実に苛立ちますので、メンバー間のトラブルを回避するためではないかと思われます。

やってる本人にしても、セット間にスマホを気にしているようでは、いかにも集中力が削がれそうな気がします。

それだけではなく、スマホで見るモノについても注意が必要なようです。SNSのように反応があるコミュニケーションツールは、ドキュメンタリー動画のような受信型より、筋トレのパフォーマンスにより大きな悪影響を与えるとした研究(*1)が発表されました。


*1. Mental Fatigue From Smartphone Use Reduces Volume-Load in Resistance Training: A Randomized, Single-Blinded Cross-Over Study.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34000894/


実験:

被験者たちを2グループに分け、あるグループは筋トレの前にドキュメンタリー動画を視聴、別のグループは同じ時間だけSNSを見るように指示された。

両グループとも15RMの80%でスクワットを限界まで行うエクササイズを3セット行った。セット間の休息は3分間。

結果:

SNSグループは平均して15%ほど挙上回数が減り、また精神的な疲労度が高くなった。運動の強度やモチベーション、さらには血中乳酸濃度といった要素にはグループ間で大差はなかった。


研究者たちは上の結果を踏まえて、パフォーマンスの差異は身体的なものではなく、心理的要因によるものだと結論で述べています。


なかにはSNSで筋トレのモチベーションを上げる人もいるかもしれませんが、筋トレの30分くらい前にはスマホを閉じる方がより賢明なようです。

2024/10/02

デッドリフト500㎏!ストロングマン・コンテスト王者の身体は一般人とどう異なるか、の研究

 










ストロングマン・コンテストという競技を知っていますか?

巨大なタイヤをひっくり返したり、トラックを引っ張ったり、ドラム缶を投げたりする力比べです。巨大な人たちが集まって、信じられないようなパワーを披露してくれます。


参照記事:人間の極限パワーに挑む「ストロングマン・コンテスト」


そのストロングマン・コンテスト世界大会で優勝歴があり、デッドリフト世界記録(500㎏!)も樹立したことがあるエディ・ホール選手の肉体が一般人とどのように異なるかを解剖学的に調べた研究(*1)が発表されました。

*1. Muscle and tendon morphology of a world strongman and deadlift champion


そんなの筋肉量がめちゃくちゃ多いに決まってるでしょ、と思うかもしれません。まさにその通りで、ホール選手の全身筋肉量は一般人の2倍以上あるということです。そこら辺は、わざわざ調べなくても、見たら分かりますよね。

しかし、それだけではありません。その筋肉がどこについているか、どの種類の筋肉が多いか、靱帯や腱との比率は、と掘り下げて分析していくと、興味深い事実が浮き彫りになりました。
  • ホール選手の下半身を安定させる小さな筋肉群(スタビライザー)は一般人の2.5倍から3倍くらいある。大きな筋肉を鍛えるだけでは、重いモノを持ち上げて、それを保持することはできない。
  • ール選手の大腿四頭筋は一般人の2倍あるのに対し、この筋肉につながる腱は30%しか大きくない。これは筋肉の成長が腱の成長を上回っていることを示唆しており、腱損傷のリスクが高まる可能性がある。

尋常ではないパワーは巨大な筋肉によって発揮されますが、外目に見えない部分も大切なようです。ただし、筋肉は鍛えられても、それを支える腱を鍛えることは難しいようです。

よく筋トレは故障予防のためにも提唱されますが、筋力を鍛えることは必ずしも故障リスクを減らすとは限りません。かつてプロゴルファーのジョン・デーリー選手がこんな発言をしました。

「筋肉は攣ることがあるけど、脂肪は攣らないよ」