2024/11/28

クロスフィット本部の発表に選手会が反発。クロスフィット・ゲームズのボイコットも容認

 













Brent Fikowskiがリーダーを務め、クロスフィットのトップ選手たちが集まったグループ、Professional Fitness Athletes’ Association (PFAA)が公式インスタグラムを更新し、先日のクロスフィット本部による発表を非難しました。



「死亡事故の調査結果が不透明であることに失望し、また改善案には満足しない」とあります。クロスフィット・ゲームズをボイコットするアスリートがあれば支持するとも述べています。


死亡事故が起きた直後、PFAAは以下の3つをクロスフィット本部に要求していました。


1)死亡事故に関する第三者機関の調査

2)安全対策委員会の設置

3)Dave Castroの追放


1)、2)に関しては不十分、3)は無視されたという認識なのでしょう。

さて、どうなるでしょうか。



2024/11/24

クレアチン摂取で期待できる筋肉増加はどれくらいか? 12の研究を統合解析したメタアナリシス

 













世の中には筋肉を増やすためのサプリメントは数えきれないほどありますが(どなたか数えてみてください)、そのなかでもっとも効果と安全性が科学的に証明されていて、ドーピング規制に抵触する恐れが少なくて、しかも簡単に手に入るものを探すとすれば、たぶんクレアチンはプロテインパウダーに次ぐのではないでしょうか。

では、クレアチンを摂取すると、実際にどれくらいの筋肉が増やせるの? という疑問を調べた論文(*1)が発表されました。1,700件近くのデータから12個の既存研究を選び、それらを統合解析したメタアナリシスです。

*1. The Effect of Creatine Supplementation on Resistance Training-Based Changes to Body Composition: A Systematic Review and Meta-analysis
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39074168/


50歳以下で日常的に筋トレをしている人、という条件下での平均値は以下の通りなのだそうです。

  • 筋肉量増加:1.1 kg
  • 脂肪量減少:0.7 kg


むろんあくまで平均値の話ですので、個人差はあります。クレアチンをたくさん摂取しても、筋トレが不足していたら筋肉は増えません。クレアチンを摂らなくたって、筋トレをすれば筋肉は増えます。

どこまでがクレアチンのおかげで、どこからが筋トレの効果なのか。その線を引くことは不可能か非常に困難なのだろうと想像できます。

それでも、もしクレアチンを摂取していて、上の数字を極端に上回っていたり、あるいは下回っているのであれば、一度立ち止まって、筋トレと栄養摂取のやり方を見直した方がよいかもしれません。



2024/11/20

クロスフィット本部が改訂した安全対策ルール及び手順を発表

 













Lazar Đukić選手の死亡事故に関する第3者調査が完了し、来年以降のクロスフィット・ゲームズに向けて安全対策ルール及び手順を改訂したとクロスフィット本部が発表しました。


クロスフィット・ゲームズ公式ウェブサイトの発表(英語):
Moving Forward Together – Safety and Procedural Changes Following the 2024 CrossFit Games


もっとも、調査の内容はプライバシー保護のために非公開とするとのことで、事故原因の真相や責任の所在が明らかになったわけではありません。

事故から3か月以上が経っていることを考えると、これだけの時間をかけた理由がいまひとつ私には分かりませんが、以下がその要旨です。

1.安全担当リーダー職の創設

安全対策を一元管理し、その責任を負うリーダーを置くということです。この役職は外部から新たに人材を採用し、代表者のデイブ・カストロとクロスフィット・CEOの下に直結するとあります。

つまり、カストロ君もフォール氏も現職に留まり、事故の責任は負わないらしいです。

2.安全対策委員会の設置

医療や安全の専門家やアスリートで構成する独立した安全対策委員会を設置する、この委員会は大会前と大会中にリスク評価や安全性に関する助言を行うとあります。

3. オープンウォーター環境での競技は中止

今後は海や湖などでの競技は行われないとのことです。プールではあり得ます。

4. 大会前のリハーサルを実施

すべての大会スタッフを集めて、安全手順の確認を目的としたリハーサルを行うとあります。アスリートたちの事前ミーティングでも安全手順の説明を行うということです。

これなどは競技の内容を伏せていてはできませんので、今後はイベント発表の時期が早まるかもしれませんね。

5. メンタルヘルス専門家によるサポートを増やす

6. アスリートたちの互選による選手委員会を設立する



2024/11/14

遅筋と速筋の比率を知る方法 ー 新研究の紹介

 













筋肉を構成する筋繊維は「遅筋(赤筋)」と「速筋(白筋)」のタイプに大別されます。そして人は誰でも遅筋繊維と速筋繊維の両方を持っています。しかし、どちらがより多いかという組成比率は先天的に決まっています。

簡単に言えば、遅筋繊維の割合が大きい人は長距離走に向いていますし、速筋繊維の割合が大きい人には短距離走が向いています。マラソンランナーと100m走スプリンターの体格を比較すれば明らかです。

遅筋と速筋のどちらを多く持っているかは生まれつきであり、それは変えることはできないということが長い間の定説でした。しかし、2018年に発表された研究(*1)はその定説を否定しました。

*1. Muscle health and performance in monozygotic twins with 30 years of discordant exercise habits
https://www.researchgate.net/publication/326398362_Muscle_health_and_performance_in_monozygotic_twins_with_30_years_of_discordant_exercise_habits

30年間という長期間に渡って、異なる生活習慣を送ってきた一卵性双生児を調べたところ、同一だったはずの筋繊維組成が異なっていることを発見したのです。

研究対象になった双子の1人は長距離走やトライアスロンなどの耐久系スポーツを行っていて、もう1人はほとんど運動の習慣がありませんでした。この2人の筋繊維組成を調べてみたところ、耐久系アスリートは遅筋繊維がそのほとんどを占めていたのに対し、運動の習慣がない方は遅筋繊維と速筋繊維の比率がほほ半分半分だったということです。

つまり、トレーニングによって遅筋と速筋の比率を変化させることは可能だと明らかになったのです。

しかし、遅筋と速筋の先天的な比率傾向は厳然として存在します。いわばスポーツの種類に応じた適性です。どちらかを意図的に伸ばすことはできても、それには長い年月がかかります。

現在の自分が遅筋優位タイプなのかそれとも速筋優位タイプなのかを知りたい人は、厳密には生体組織検査を受けるしかありません。筋肉を切り取り、医学的に分析してもらうわけです。想像するだけで痛そうです。

そんな大げさなことはしたくないという人は多いでしょう。医学的なアプローチとは別に、誰でも簡単に筋繊維比率を「推測」する方法には以下のものがあります。

  1. 垂直跳びの記録が男性は50cm以上、女性は35cm以上なら、その人は速筋優位
  2. 1-rep max の80%でバックスクワットを限界まで行い、8回以下なら速筋優位、11回以上なら遅筋優位

2の方法は私のでっちあげではなく、2023年に発表された研究(*2)に基づいています。

*2. Can muscle typology explain the inter-individual variability in resistance training adaptations?
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37038845/#full-view-affiliation-1

速筋優位タイプは1回挙げるだけの最大重量(1-rep max)は遅筋優位タイプよりやや優位なのですが、その80%の重量で10回3セットやれと言われるとできないらしいのです。

簡単な判別方法なので、試してみてはいかがでしょうか。





2024/11/09

52歳が筋トレしても、22歳が筋トレしても、筋肉が受けるダメージは同じ ー 新研究の紹介

 













国際スポーツ医学ジャーナルに発表された研究(*1)によると、トシをとると筋肉のダメージが大きくなるとか、回復に時間がかかるとか、だから筋トレの強度と頻度は控えめにしましょうって話はウソだったらしいです。

*1. Acute Inflammatory Response to Eccentric Exercise in Young and Master Resistance-trained Athletes
https://www.thieme-connect.com/products/ejournals/abstract/10.1055/a-2348-0238

研究では平均年齢22歳の若者グループ8人と平均年齢52歳のおっさんグループ8人に分けて、それぞれのグループからスクワットの記録が似通った者同士をマッチングしました。
そして、1-rep maxの70%でスクワットを10回行ってもらい、筋肉のダメージ、炎症、そして回復の変化を筋トレ直後から72時間後になるまで追跡しました。

筋トレ後のダメージはどちらのグループも同程度でした。同じような炎症が起き、24時間後からは同じように回復していきました。

22歳でも52歳でも、筋トレしたら筋肉痛になるのは当たり前。同じように筋繊維は破壊されるし、若ければ早く治るわけではないし、トシをとると治りにくくなるわけでもないそうです。

俺もトシだから、もう若いときのようにムチャな筋トレはできないよ。そんなことを口走ったことがある人は反省しないといけないようです。もし以前より回復が遅くなったと感じているとしたら、それは単にトレーニング不足なのかもしれません。自戒を込めて。




2024/11/04

ぶっ倒れるまでの筋トレはパフォーマンス向上には適さない。見た目には良い。ー新研究の紹介

 













ワークアウトの後でジムの床にぶっ倒れたことってありますよね? ベンチプレスでバーベルが胸から挙がらなくなって、助けてくれ~って叫んだことがありますよね?

でもこれって、パフォーマンスを上げる効果はあまりないらしいです。より正確に言えば、挙がらなくなる限界まで筋トレを行う方法はとくに筋力を増加させない、ただし筋肥大効果はあるって結論を述べた研究(*1)が発表されました。

*1. Exploring the Dose–Response Relationship Between Estimated Resistance Training Proximity to Failure, Strength Gain, and Muscle Hypertrophy: A Series of Meta-Regressions
https://link.springer.com/article/10.1007/s40279-024-02069-2


フロリダ・アトランティック大学の研究者を中心とした論文著者グループは筋トレに関する既存の研究を統合分析し、運動中に運動者がどの程度筋肉の限界に近づいたか、またそれが結果にどのような影響を与えたかを調査しました。

その結果、筋力をつける目的に関しては、筋肉が完全に限界に達するまで自分を追い込むか、あと数回の反復回数を残してセットを終えるかは、大きな違いを生まないことが分かりました。しかし、筋肉の成長に関しては、限界に近いトレーニングの方が有利であるようです。

筋トレを行う理由は人によって様々です。ボディビルダーのように身体をデカくしたい人はぶっ倒れるまでやった方がいいようです。スポーツのパフォーマンスを高めたい人は、あと数回はできるなってくらいで留めておいた方が良さそうです。逆のように聞こえるかもしれませんが。




2024/11/02

エキセントリック動作はストレッチより筋肉の張りを減らす ー 新研究の紹介

 













あらためて述べるまでもないことですが、筋トレをすると筋肉が張ります。可動域は狭くなりますし、痛みを伴うこともあります。同じ部位の筋肉に続けて負荷をかけることは避け、筋トレ間に適度に休息日を設けることが望ましいのはそのためです。

休息日にまったく動かないか(完全休養)、あるいは軽い運動やストレッチを行うか(積極的休養)かはその人次第です。

ところが、エキセントリックのみの筋トレ動作にはハムストリングス筋肉の張りを減らす効果があることを、同志社大学の研究者らが発表しました(*1)。


*1. Can Eccentric-only Resistance Training Decrease Passive Muscle Stiffness while Increasing Size and Strength of Hamstrings?
https://journals.lww.com/acsm-msse/abstract/9900/can_eccentric_only_resistance_training_decrease.577.aspx


エキセントリックとは筋肉を伸ばしながら力を発揮する「伸張性筋収縮」のこと。俗に言う「ネガティブ動作」です。バーベルを上に持ち上げるのはコンセントリック、下に下げる部分がエキセントリックです。

この研究で採用されたのはStiff Leg Deadliftと呼ばれる種目です。 膝を少しだけ曲げたままで行うデッドリフトのことですが、研究ではとくにバーベルを下げる動作のみを行いました。

被験者に選ばれた36人の健康な男性たちは、その動作を10回3セット行うセッションを週2回もしくは週3回課せられるグループに分けられました。期間は10週間で、挙上重量は体重の60%,70%,80%と徐々に増やされました。

10週間後、両グループともハムストリングスの筋肉サイズと筋肉は増え(当然ですが)、週3回グループは筋肉の張りが大幅に減少しました。つまり、筋トレをより多く行った方が、筋肉の張りが減ったというわけです。

どうやら筋トレ後の回復方法はストレッチに限らなくてもよいようです。なにか、二日酔いには迎え酒が効くって言われている気がしなくもありませんが。